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地球への旅
地球への旅

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シーオスも同じく球状の形状をしており、直径は九十六メートル、それぞれの長さが三百メートル余りの管状ダクトが十八本張りめぐらされていた。ダクトは十度の角度間隔で子午線状に宇宙船の全輪郭を覆っていた。内部は二十三階建て、高さ八メートルの中央の階(十一階)を除く各階の高さは四メートルある。それぞれの階へは、各階にあるコンジットの停車場から容易にアクセスできるようになっている。実際に、船内の最も離れた二点間を移動するのにかかる時間はせいぜい十五秒といったところだ。

モジュールにブレーキをかけると、ほとんど音も振動もなく止まった。かすかにシューと音をたててドアが開き、その向こうにペトリが立っていた。仁王立ちして腕組みしている。

「何時間待たせるんだ」いかにも納得いかないという口調だ。「そのいつも持ち歩いているくさい代物で、とうとうエアフィルターでも詰まらせたか?」実際には、葉巻はほんのかすかに匂う程度だ。

ペトリの挑発的な物言いは無視して、アザキスは携帯式アナライザーをベルトから引き抜き、親指でスイッチを入れた。

「これを持ってろ。急がなくちゃな」アザキスはそう言うと、ペトリにアナライザーを手渡しながら、もう一方の手で右側の連結器内部にあるセンサーの位置を探った。「到着予定時刻は約五十八時間後だ。それに、心配になってきてな」

「何が心配なんだ?」少し驚いた様子でペトリがたずねた。

「分からない。でも、何か良くないことが起こりそうな気がするんだ」

ペトリが受け取ったアナライザーが周波数を変えながら一連の音を発しはじめた。その音が何を意味するのかも分からず、アナライザーをまじまじと見た。ペトリはアザキスの顔を見つめ、その表情から何らかの説明が得られるかを探った。しかし、手がかりなし。アザキスは用心深い動作で別の連結器にセンサーを取り付けた。アナライザーが、またしても意味不明の音を発した。そして沈黙。アザキスはペトリの手からアナライザーを取りあげ、結果をよく確かめてから、笑みを見せた。

「すべて順調だ。続けよう」

ペトリはその時になって初めて、自分がしばらく息を呑んでいたことに気づいた。大きく息を吐くと、即座に緊張が緩んだ。ただし、小さな不具合とはいえ、連結器の故障はミッションに悪影響を及ぼす恐れもある。ペトリとアザキスは再度機器に向き直り、作業を続けた。この作業が終われば完了、もうすぐだ。

「ちょっと一風呂浴びてくる」体についた細かい埃を払い落しながらペトリは言った「コンジットに来てみると、いつもこんな具合だ……」そして上唇を歪めて付け加えた「これも修行ってことか」

アザキスは微笑んだ「じゃあ、後でな。ブリッジで」

ペトリはカプセルを呼び出し、次の瞬間にはその場を去っていた。

中央管制システムが船が木星の軌道を無事に通過し、スムーズに地球に向かっていることを告げた。アザキスは目をわずかにすばやく右に動かし、オーコムに再度航路を示すよう求めた。赤い線に沿って移動している青い点が火星の軌道にまた少し近づいた。カウントダウンは、到着予定時刻は今からきっかり五十八時間後であり、船は現在秒速3,000キロの速度で航行中であることを告げていた。アザキスの緊張は徐々に高まっていた。彼らの宇宙船は新型ボウセン・エンジンを搭載した初めての機体であり、これまでに用いられてきた宇宙船とはコンセプトが全く異なっていた。設計者はこの宇宙船は光速のほぼ十分の一の速度で推進できると謳っていた。だが、それを限界まで試してみるつもりはない。今のところ、処女航海としては、秒速3,000キロでも充分すぎる速度だ。

通常、シーオスには五十六名の乗組員が乗船できたが、最初の任務に当たっては、ペトリとアザキスを含むわずか八名のみが選ばれた。長老達はこれについて明確な理由を述べなかったが、アザキスらは、この旅の性質と目的地がその理由だろうと推測した。明らかに困難が伴う任務である以上、多くの人命を危険にさらすべきではない。

俺らは消耗品っていうことか? そんな言い草あるか。いつもしまいにはこんな風になるんだ。誰かの首をかけてやらなきゃならない時に、誰がそれを率先してやるかって? アザキスとペトリさ。

結局のところ、冒険におあつらえ向けの性格と困難な状況において答えを見出す突出した能力により、彼らは少なからず特権を得てきた。

アザキスは、大陸南部の美しい街サーランに建つ、かつては地域のクラフトマンの倉庫として利用されていた巨大な建物に暮らしていた。そして特権により、その建物を自分好みにアレンジする許可を得ることができた。

南側の壁は、宇宙船に使用されているのと同じようなフォースフィールドにし、もはやアザキスの体と一心同体ともいえる自動形状形成肘掛け椅子に体を沈めながら、すばらしい湾の眺めを堪能できるようにした。必要に応じて、この壁は十二のGCS伝送映像を同時に映し出す巨大な三次元システムにもなる。この高度な監視・管理システムのおかげで、これまで何度も重要な情報を事前に収集してかなり先の危機まで整然と解決するのに役立った。何があっても、これを手放すつもりはなかった。

以前倉庫だった邸宅のうちの一画は丸々、何年もかけて様々な宇宙ミッションで収集した土産物のコレクションを所蔵するためのスペースになっている。コレクションの一点一点を見るたびに、それにまつわる思い出がよみがえり、この奇妙なモノの寄せ集めの中に身を置くたびに、自分の運の良さ、特に何度となく危機から救い出してくれた忠実な友に感謝せずにはいられなくなる。

ペトリは、知力にも優れた男でありながら、ただ与えられるだけの技術に頼ることをよしとはしなかった。ほとんどすべての種類の航空機を操縦でき、また、あらゆる武器、局地的・惑星間通信システムに精通していながらも、自分の勘と手作業のスキルを頼りに、直面した問題を解決することを好んだ。これまで幾度も、形さえない金属の塊から素早く移動装置や無敵の防御装置を創り出してきた。まったく非凡としか言いようがない。必要なものはほぼすべて自分で創り出すことができた。この才能の一部は腕の良いクラフトマンである父から受け継いだものであったが、大部分は彼自身の芸術への情熱から来たものだった。実際、少年の頃から、ペトリはクラフトマンが役に立たないものから、有用なものと技術を生み出し、さらには「美」の領域に達するものさえ創り出す技を見るにつけ、畏怖の念を抱いてきた。

けたたましく不快な断続的な音が、アザキスをいきなり現実に引き戻した。自動近接アラートが作動したのだ。

ナーシリーヤ – ホテル

五つ星ホテルでないことは確かだったが、砂漠の中のテントで何週間も過ごした人間にとっては、シャワーでさえ贅沢に思えた。エリサは冷たくすがすがしい水が首や肩をマッサージするのに任せた。彼女の体は冷たさを歓迎し、一連の心地よい震えが背中に走った。

なくなって初めて、それがどれほど大事なものだったか気づくこともある。

シャワーから出る十分以上前、蒸気に曇った鏡をのぞきこもうとしたところ、明らかに傾いているのが分かった。傾きを直そうとしたが、手を放した途端にまた傾いてしまう。しまいには無視することにした。体についたしずくをタオルで拭きとりながら、自分の姿に見とれた。数年前まで、モデルや女優の仕事を頻繁にオファーされていた。銀幕の女神やフットボール選手の妻にだってなれたかもしれない。だが、お金にはそれほど興味がなかった。むしろ、汗を流し、埃にまみれ、古代文字を調べ、忘れ去られた場所を訪れることを好んだ。彼女にとって、冒険とは古代の遺物、何千年も昔の出来事の痕跡を見つけ出すことに関連した、血の出るような努力と感情を意味しており、これに勝るものは何もなかった。

鏡に近づき、目じりにできた忌々しい小皺を見つめた。とっさに化粧品のバッグに手が伸び、アンチエイジング・クリームを取り出した。「一週間もしないうちに、目に見えて皺が減る、ですって」クリームをよく顔に塗り、注意深く鏡の中の顔を眺める。奇跡を起こせるとでもいうの? でも七日後には目に見えて効果が分かると言っていた。

鏡の中の自分、そしてそのような宣伝文句にすんなり騙される他のすべての女性に微笑んだ。

ベッドの上の壁掛け時計は午後七時四十分を指していた。あと二十分で支度するなんて、絶対無理。

急いで体を拭くと、長いブロンドの髪は少し湿ったままにして、暗色の木製のクローゼットの前に立った。この中には、ここまで何とか持ち込むことのできたドレスアップ用の服が数着収まっていた。いつもなら時間をかけてTPOに見合った服を選ぶところだが、今夜は選択肢が限られていた。あまり深く考えずに、丈が短い黒いドレスを選んだ。見た目が良くてセクシーだけれど、下品ではない。魅惑的なネックラインは、彼女の肉感的な体つきをはっきりと強調するだろう。そのドレスを手に取り、エレガントな手つきでベッドに投げかけた。

午後七時五十分をまわった。それが女性の特権とはいえ、時間に遅れるのは嫌だった。

窓の外を見ると、ホテルのドアのすぐそばに暗色に輝くSUVが停まっているのが見えた。おそらく運転手と思われる軍服に身を包んだ若者がボンネットに寄りかかり、待ち時間を利用して静かにタバコを吸っていた。

アイペンシルとマスカラでできる限り目元を強調し、唇に手早くグロスを乗せた。グロスを唇の上で均等に延ばすために空のキスをいくつもしながら、お気に入りのピアスをはめたが、穴のあいている場所を見つけ出すのにいくらか苦労した。

実は夜に出かけるのは、久しぶりだった。仕事が生活のすべてになっていたため、特定の恋人を作ったことさえなかった。関係が続いたとしても、たいてい数か月程度だった。少女時代から生まれつき母性本能が強いことは分かっていたが、ずっと無視してきた。しかし、生物的な成熟期を迎えようとしている今、それを否が応でも意識せずにはいられなくなっていた。もしかしたら、結婚を真剣に考えてみるべき時が来たのかもしれない。

そのような考えを素早く追い払うと、ドレスを身に着け、唯一持ってきていたハイヒールに足を滑り込ませ、鷹揚な動作で首の両側に今ある中で一番上等の香水を吹き付けた。シルクのスカーフに、たっぷり入る黒のバッグ。これで出かける準備ができた。ドアの近くの壁にかかったさびた鏡で身だしなみを再度チェックし、完璧にメイクできていることを確かめた。鏡の前でさっと一回りしてから、彼女は満足げに部屋を出た。

若き運転手は、ホテルから出てきたモデルのようなエリサの姿を見て思わずぽかんと開けた口を閉じると、火を点けたばかりの二本目のたばこを投げ捨てて、急いで車のドアを開けた。

「こんばんは、ハンター博士。参りましょうか」運転手はもごもごと言った。

「今晩は」エリサはこれに応じ、最高の笑顔を見せるよう努めた「ええ。準備はできていてよ」

「お出迎え、ご苦労様」車に乗り込みながら、そう付け加えた。スカートの裾が引き上げられて、この兵士をどぎまぎさせるのに充分なほど脚が露出するのは分かっていた。

称賛はいつだって歓迎だ。

宇宙船シーオス – 近接アラート

オーコム・システムがアザキスの目の前で急速に何かの像を映しはじめた。長距離レンズが捉えた、解像度が低いためまだ輪郭がぼんやりとした奇妙なものの姿が見えはじめた。それは間違いなく動いており、シーオスに向かって来ていた。近接アラート・システムは、いずれも進路を変更しない場合、シーオスとその未知の物体が衝突する確率を96%以上と見積もっていた。

アザキスは急いで一番手近にある移動モジュールに飛び乗った。自動制御システムに短く「ブリッジ」と吠えるように告げる。

五秒後、シューという音と共に巨大な集中スクリーンが据えられたコントロール室のドアが開いた。スクリーンには、シーオスへの衝突コースをまっしぐらに進む物体の姿がおぼろげに映し出されていた。

ほとんど同時に、ペトリが息を切らせて別のドアから入ってきた。

「いったい全体、何が起こってるんだ? この辺りで隕石に遭遇するなんて、あり得ない」ペトリは叫ぶと、巨大なスクリーンに見入った。

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